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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)13750号・昭63年(ワ)663号 判決

一 請求の原因1及び2の事実は、当事者間に争いがなく、右争いのない同2の事実と成立に争いがない甲第二号証によれば、本件発明の構成要件は、同3のとおりであることが認められる(なお、右認定の構成要件中の番号及び符号は、実施例に示されているものを付したにとどまり、本件発明の技術的範囲を実施例のものに限定する趣旨を含むものではない。)。

二 被告デニソンが原告主張の被告製品(一)を輸入、販売しているかどうか、被告デニソンが輸入、販売し、被告アドバンスが販売している原告主張の被告製品(二)が本件発明の技術的範囲に属するかどうかについて判断する。

1 原告は、本件発明の構成要件(6)にいう「軸線に垂直な二つの環状係止面」の意味について、被告らの主張に対する原告の反論1のように主張するところ、原告の右主張によると、本件発明の右の構成は、環状係止面7a、7bをその一部に有する環状固定歯6が全体として軸線に対して垂直の方向に突き出ていればよく、環状係止面7a、7b自体は、軸線と垂直(原告の表現では水平)の角度を有していなくてもよいということになる。しかしながら、当事者間に争いのない本件明細書の特許請求の範囲の項の記載によれば、本件発明の特許請求の範囲には、「軸線に垂直な二つの環状係止面を有する環状固定歯を設け」と記載されているところであり、右記載によると、軸線に垂直であるのは、あくまで環状係止面であつて、環状固定歯ではない、と解さざるをえない。この点について本件明細書の発明の詳細な説明の項の記載を参酌するに、前掲甲第二号証によれば、本件明細書の発明の詳細な説明の項には、本件発明の説明として、「本発明の封緘具は、・・・この軸線に垂直な二つの環状係止面を有する環状固定歯を設け、」(本件公報二頁三欄九行目ないし一二行目)と記載されており、また、実施例に即して、「そのため環状固定歯6には、挿入孔5の軸線に垂直な二つの環状係止面7a、7bと、この軸線と同一の軸線を有する案内面7cが形成されている。」(本件公報二項三欄四二行目から四欄一行目)と記載されていることが認められ、右認定の事実に照らしても、軸線に垂直であるのは、あくまで環状係止面であるといわざるをえない。そして、前掲甲第二号証によれば、本件明細書には、本件発明の「軸線に垂直な二つの環状係止面」の構成が原告が主張する意味に解すべきを示唆するような記載がないことが認められる。そうすると、環状係止面は、それ自体が軸線に垂直な面であると解される。この点に関して、原告は、本件明細書には、被告らが主張するような意味、つまり、右のような意味において「垂直」であることについての作用効果の記載はない旨主張する。しかし、前掲甲第二号証によれば、本件明細書の発明の詳細な説明の項には、右構成を含む本件発明の作用効果について記載されていることが認められるところ、それ以上に「垂直」の構成自体について作用効果の記載がないからといつて、右構成の意味について原告主張のように解さなければならないとする理由はなく、また、被告ら主張のように解することはできないとする理由もない。しかも、成立に争いがない乙第一号証及び第四号証によれば、本件発明の特許出願人である原告は、本件発明の特許出願の願書に最初に添付した明細書の特許請求の範囲には、被告らの主張1(一)において被告らが主張するとおり記載していたが、その後、昭和五六年八月一四日付手続補正書をもつて、右特許請求の範囲について請求の原因2のとおり補正したことが認められ、右認定の事実によれば、原告は、当初、環状固定歯の形状や環状係止面の角度について格別の限定もしていなかつたのに、右補正により、「軸線に垂直な二つの環状係止面」とし、右構成を本件発明の構成に欠くことができない事項として本件発明の構成要件に加えたのであるから、右構成要件の存在を無視するような解釈を採ることは、困難であるというほかはない。したがつて、原告の右主張は、採用することができない。

次に、前記本件発明の構成要件(9)によれば、係止突片9aは、係止時には、環状係止面7aあるいは7bに接して、これによつて支持されるものであることが明らかであり、右構成によると、環状係止面7a、7bは、このような係止作用を有する面として予定されているものと解される。このことは、前掲甲第二号証により認められる本件明細書の発明の詳細な説明の項に、「係止突片9aは後述のように、結合部3を頭部1内に係止する場合に環状固定歯6の環状係止面7aまたは7bと衝合して支持され、それにより係止を行うためのもので、」(本件公報二頁四欄二四行目から二七行目)、「係止突片9は弾性的に第三図のような遊離状態に復元してその後端が第六図と第七図に示すように固定歯6の係止面7aと衝合して支持され、」(同三頁五欄三四行目から三七行目)などと記載されていることからも明らかである。なお、前掲甲第二号証によれば、本件発明の実施例中には、環状突起部7d、7e(本件公報第一一ないし一四図参照)という部分のあるものが認められるところ、その実施例の記載によると、この環状突起部7d、7eも、係止時において係止突片9aと接するであろう面を持つているものと認められるが、その面は、軸線に垂直でないことが明らかであつて、その意味において、ここを環状係止面7a、7bの一部と解することはできない。本件明細書に本件発明の作用効果として記載されていることについて争いのない請求の原因4(五)の事項によつても、環状突起部7d、7eは、係止突片9aを確実に位置決めし、安定した結束を行うことを可能にするものであるというのであり、そのことからも、それ自体で係止作用を有する部材として本件明細書に開示されている環状係止面7a、7bとは異なる独立した部分とされているものと認められる。

以上によれば、本件発明の構成要件(6)、(9)の環状係止面は、係止時において、係止突片と接してこれを支持することによつて係止させる面であり、かつ、この面が挿通孔の軸線と垂直の角度を有しているものと認めるのが相当である。

2 原告が別紙目録(一)の記載をもつて特定している被告製品(一)の環状係止面7a、7bは、係止時において、係止突片9aと接してこれを支持することによつて係止させる面であり、かつ、この面が挿通孔5の軸線と垂直の角度を有しているものを指すものと解して(仮に、そうでないとすれば、前1の説示に照らし、被告製品(一)は、それだけで本件発明の構成要件(6)あるいは(9)を充足しないことになる。)、審案するに、被告デニソンが販売した製品の拡大写真であることについて争いのない甲第三号証の一ないし四、第四ないし第六号証の各一、二、第一一号証の一ないし一〇〇によれば、この写真の被写体である多くの製品の中には、同被告が別紙目録甲で主張するところの環状係止面(原告の主張するところの環状係止面の傾斜した部分)と挿通孔5の内壁との間で挟まれた部分(以下「挟間底部」という。)に、U字状の丸くなつている部分を有するものや、直線状になつて、挿通孔の軸線と垂直になつているように見える部分のあるものが散見されることが認められる。右認定の事実によれば、このような製品が別紙目録(一)をもつて特定されているかどうか疑問があるが、ここでは暫く、これを肯定したうえで検討を進めるに、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二二号証の一及び同号証により被告デニソンが販売した製品の拡大写真であることが認められる乙第二二号証の二ないし一一によれば、右の製品は、係止時において、係止突片が挟間底部には接していないことが認められ、更に、この証拠から認められる係止突片の形状や大きさに照らすと、前掲甲第三号証の一ないし四、第四ないし第六号証の各一、二、第一一号証の一ないし一〇〇の被写体である製品のうち、軸線に垂直に見える部分を有する製品においても、右と同様に、係止突片がその垂直に見える部分に接して、その部分で係止されているものと認めることは困難であり、また、仮に係止突片が挟間底部に接することがあつたとしても、その部分が前示係止作用を有する面であると認めることも困難である。そして、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。以上によれば、結局、全証拠を検討しても、被告デニソンにおいて、別紙目録(一)記載のような環状係止面7a、7bを有する製品を輸入、販売していたことを認めるに足りる証拠がないことに帰する。

3 被告デニソンが輸入、販売し、被告アドバンスが販売している製品が別紙目録(二)の図面記載のものであることは、当事者間に争いがない。右図面の記載によれば、挿通孔の内壁と環状係止面によつて挟まれたV字状の角度は鋭角であつて、環状係止面は、挿通孔の軸線に対して垂直ではないことが認められる。してみると、前1の認定判断に照らし、原告が別紙目録(二)の記載をもつて特定した被告製品(二)は、本件発明の構成要件(6)を充足せず、ひいては、本件発明の技術的範囲に属しないものというべきである。

三 よつて、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却することとする。

〔編注1〕本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、左のとおりである。

「挿通孔を持つ頭部と、この頭部の側面から延長する中間部と、この中間部の先端に形成され、上記挿通孔に挿通して係止される結合部とからなり、全体が合成樹脂で一体に成形された封緘具において、前記挿通孔の内部には該挿通孔と同一の軸線を有する案内面と該軸線に垂直な二つの環状係止面を有する環状固定歯を設け、前記結合部は前記挿通孔にいずれの方向からでも挿通可能であり、前記中間部はひも状であつて前記軸線に対して垂直に延びており、かつ結合部には該結合部の後端方向に延びる係止突片を一体的に突設し、この係止突片は挿通時には前記固定歯の案内面に当接して前記軸線方向に圧迫され、挿通後には遊離状態に拡大するように弾性的に揺動でき、係止時にはこの係止突片を上記固定歯のいずれか一方の環状係止面で支持して係止することを特徴とする封緘具。」

〔編注2〕本件における目録は左のとおりである。

目録(一)

別紙図面及び次の構造からなる封緘具

A 基本的な構造

(1) 挿通孔5を持つ頭部1と、

(2) この頭部1の側面から延長する中間部2と、

(3) この中間部2の先端に形成され、上記挿通孔5に挿通して係止される結合部3とからなり、

(4) 全体が合成樹脂で一体に成形された封緘具である。

B 特徴的な構造

(5) 前記挿通孔5の内部には該挿通孔5と同一の軸線を有する案内面7Cと、

(6) 該軸線に垂直な二つの環状係止面7a、7bを有する環状固定歯6を有し、

(7) 前記結合部3は、前記挿通孔5にいずれの方向からでも挿通可能であり、

(8) 前記中間部2は、ひも状であつて、前記軸線に対して垂直に延びており、かつ、結合部3には該結合部3の後端方向に延びる係止突片9aを一体的に突設し、

(9) この係止突片9aは、挿通時には前記固定歯6の案内面7Cに当接して前記軸線方向に圧迫され、挿通後には遊離状態に拡大するように弾性的に揺動することができ、係止時にはこの係止突片9aを上記環状固定歯6のいずれか一方の環状係止面7aあるいは7bで支持して係止する。

<省略>

目録(二)

別紙図面及び次の構造からなる封緘具

A 基本的な構造

(1) 挿通孔5を持つ頭部1と、

(2) この頭部1の側面から延長する中間部2と、

(3) この中間部2の先端に形成され、上記挿通孔5に挿通して係止される結合部3とからなり、

(4) 全体が合成樹脂で一体に成形された封緘具である。

B 特徴的な構造

(5) 前記挿通孔5の内部には該挿通孔5と同一の軸線を有する案内面7Cと、

(6) 該軸線に垂直な二つの環状係止面7a、7bを有する環状固定歯6を有し、環状係止面7a、7bのうちの水平状の係止面が曲線を呈し

(7) 前記結合部3は、前記挿通孔5にいずれの方向からでも挿通可能であり、

(8) 前記中間部2は、ひも状であつて、前記軸線に対して垂直に延びており、かつ結合部3には該結合部3の後端方向に延びる係止突片9aを一体的に突設し、

(9) この係止突片9aは、挿通時には前記固定歯6の案内面7Cに当接して前記軸線方向に圧迫され、挿通後には遊離状態に拡大するように弾性的に揺動することができ、係止時にはこの係止突片9aを上記環状固定歯6のいずれか一方の環状係止面7aあるいは7bのうちの水平状の係止面又は傾斜した係止面で支持して係止する。

<省略>

(以下省略)

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